原 みちこ

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2013-07-01から1ヶ月間の記事一覧

紅香の愛・Benica・

紅香の愛・Benica・

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI 完

わたしは なぜだか 涙ぐみそうになり、 胸のあたりが じじっと響いた。 すると 夏川が、 目覚めた... この震動で、 目を覚ましたのだろうか? ...... 「やあ... さよならに来たの..」 「違う」 と言って わたしは彼に、 長いキスをした。 人にはもともと 本質…

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

「誓うよ」 夏川が とても真剣に、 すこし酔った声で 叫んだのが、 おかしかった..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

「でも フィアンセがいるって あなたの写真を みせたんだ.. それに もう二度と こういうところへは 来ない」

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

上杉は 銀座の老舗クラブの オーナーの、 喜寿の祝いに でかけていた... わたしは その時ふいに、 休暇中に 一度だけ夏川がくれた 電話のことを 想いだした。 「いま六本木なんだ... 弟に連れてこられて、 女の人たちに 囲まれている..」

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

眠っている顔の 長い睫毛は、 そのままだ。 横たわる古代の 王族のミイラ、 のようにも みえる。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

わたしは、 広尾の病院にいた。 全身 包帯におおわれた 夏川をみるのは、 つらい.. 傷のない 両手の指や甲も、 妙に ごつごつと 節くれだっていた。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

そして 大木に衝突して 全身打撲のうえ、 両手両足の 骨折.. 瀕死の状態だった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

夏川は 葉山には 行かず.. 北海道の原生林を 四輪駆動で、 ひたすら 走らせた。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

そして、 夏川..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

響子は というと.. これはまた、 華が 開いたかのような 美しさだった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

わたしは なにより平穏 を、 手に入れた。 気楽、 でもあった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

休暇から もどり 一変した。 上杉との夏は、 わたしの 人生の、 すべてを 凌駕した。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

それから 一週間後、 わたしは 葉山で過ごすという 夏川の申し出を断った。 8日間の 夏休み.. 響子は フランス人の建築家と、 ニースでの バカンスだという。 彼女はいつも、 たいへんに 豊富だ。わたしは決意した... 信州の別荘に行く。 上杉の所有する古民…

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

0時をまわり、 上杉は ハイヤーを 手配した。 定宿にしている ホテルのまえに、 わたしのアパートへの 行き先を たしかめて、 ドライバーにつげた......

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

そのあとの ワインバー。 わたしは あまり呑めるほうでは なかったが、 彼と 差し向かいで 座っている自分が、 自然に想えた。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

わたしの仕事帰りを、 上杉が 待っていたのだ。 ロビーをでて、 すぐに声を かけられた。 ふたりで、 炭火焼きの ひもの専門店に入り マグロのカマを 堪能した。 その店は 大鍋で 魚の骨をだしにした、 野菜汁も 豪快な旨さだった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

そして その予感が、 現実に なった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

なんだか ややこしいことに、 なるのが嫌だった。 上杉は、 わたしの 眠っているなにかを、 呼び覚ます力を 持っている。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

おととい、 偶然 仕事帰りの書店で 彼を見かけたのだが、 声はかけなかった..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

響子の恋人は 上杉なのだろうか、 と わたしは 一瞬考えた。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

「あなたの 好きなように なさい」 と、 響子は言った。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

響子は宇宙だった。 秩序のある 宇宙..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

翌日 響子とのカフェランチで、 すべてを 話した。 「そうでしょうね」 と応えて、 それ以上 彼女はなにも 聞かなかった。

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

その瞬間、 夏川をあたためたいと 想った。 孤独と誠実が 出逢った..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

わたしは あらためて、 夏川を 眺めた。 それにはっとして、 彼は ようやく その握った手を、 離した。 まるで ひとつの幹から のびた ニ本の脈が ふいの微風で ゆれたような 別れ方をした..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

どれほどかの 時と 悠久の孤独が ふたりのまわりを、 ゆったりと 包みこみ、 煙のように消えていった..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

はかり知れない孤独... 世界の真ん中に いるであろう 男の孤独。 おざなりの言葉は いらない。 わたしは ただ、 その横に 座っているだけだった..

紅香の愛・Benica・東京年華 MITEKI

わたしは そのままにしていた。 そして 夏川の 目の奥をのぞきこみ、 その 孤独の量に 身震いした。