2013-05-01から1ヶ月間の記事一覧
それから 一度だけ 口紅をつけた。 ネオンピンク、 というのだろうか... くちびるにのせると、 あの時の ツツジの色だった。 葬式.. わたしの 顔は 紙のように真っ白。 見かねた 日舞の先生が、 紅筆の先についたのを 塗ってくれた.. 女性というのは こんな…
父が亡くなって 10年、 離婚して 5年... わたしは 母と暮らしている。 髪をまとめて 口紅も つけないから 帰りに 誘われることもない。 しかし あの 母と離れていたころ、 夕暮れに なるのがつらかった、 夜景の美しさに 胸がしめつけられる... そんな痛みか…
その小道を 抜けると 海が広け、 母が 立っている。 時には だれかと 世間話をしながら... それはまるで、 あたりまえの風景。 咲き乱れている ツツジを見ろ、 と言う。 母はいつも、 わたしに そんな言い方をする..
なんでもない ある午後 ふ頭で 俺は 昼寝をしていた... 優しいカモミール と 甘いバラの 匂い。 麗子が 俺を のぞきこんでいた... 花柄とペーズリーの ワンピース 穏やかな日差し。 そして それが、 麗子を見た最後。 そのあとすぐに あっけなく 死んでしま…
島には ほんとうに なにもない... あるのは 俺の想いだけ。 死んでしまった だれか、 もう二度と 戻ってこないだれかを、 強烈に 懐かしく想う ......... 島は そんな感情で 存在しているんだ..
麗子は 水のような 女だ... なにも つけくわえるところが ない... ............ 島で 育ったが、 2年前に 東京に行ってしまった。 モデルから 女優 になりたい... といって、 一度も戻ってこない。 たまに 返ってくるメールには、 寝る時間もない... と 書い…
ときどき 髪を洗ってやる。 乾かして、 梳いてやる。 その一連の作業が、 神聖に おもえた... そして 2年がたち その儀式はおわった。 心臓の弁の加減だそうで、 みつけにくいと 医者から言われた。 冬だった。 遺品を整理していると、 本の中から、 たくさ…
催眠療法は どうでしょうか、 などと 言われたこともあった。 だが そんなことをして かき乱しても、 まず 良いことはないはずだ。 窓際で 正座をしている姿... そこには 一面の紫陽花。 セツコは 花色の 夢をみているんだ..
高校の同級性... その頃は バレーボールの選手として、 活躍しているような 女だった。 そのあとの 都会の学生生活で、 なにかが あったのだろう。 セツコは それ以来、 静かなまま... 別の夢でも、 みているのだろうか..
病院に 連れてゆくと、 なんでもないと言われる。 「奥さまは すこし大人しいだけなんです」 ........... またおなじ言葉。
あなたは いつも こどもみたいに わがままなので これから先 だれが きみを守ってあげられる だろう 僕を棄ててしまった いまとなってはきみは 僕を必要としていないから ただ 自分が死ぬまえに 僕は 飛んでゆこうと 想う きみに逢いに 犬のかたちになって …
それは 僕の 生涯の たった一度だけ 言った言葉です
僕は きみに逢って しばらくしてから 愛しているって 言ったでしょう
最近 不思議と あなたと 出逢ったころのことを 考えます
「カオル 元気なの とても心配しています
彼女は 思った。 自分は もう二度と、 それでは まだたりない と、 おもわないだろうと。 .............. それから 正明と手をつないでは、 いけない場所に もどっていった..
そして カオルは 読んでから、 すこしのあいだ 立ち上がれなかった..
彼が結婚する すこしまえの、 消印..
あの当時の 自分は、 どうかしていたのだ。 ......... 怖い。 いけない。 ......... だが 誘惑に負けて、 封をきった..
なんだか、 なにか あともどりした 感じが、 きもちわるいのだ。 ばかな自分... 正明を 無視して、 彼の想いのこもった 手紙を ないがしろにして。 普通の人間の することではない..
読んで いいことなんて なにもない。 このままにして.. あるいは すべてを 燃やしてしまおうか と、 彼女は 真剣に考えた。
1枚だけ 未開封の 手紙..
カオルは 彼の 思い出箱に、 ハガキを しまおうとして、 気づいた。
彼は 律儀に、 手紙やら ハガキやらを くれた。
そんなとき、 正明からの ハガキがきた。 すでに 結婚している。 転居の内容だった。