原 みちこ

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2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

兄とのあいだに なにか 確執でもあるのか、 はつえは 帰らないと 言い張った。 が、 結局は しぶしぶと 戻り かなり献身的な 看病をしているようで 晴れ晴れとした声で、 毎晩 電話をよこした。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

しばらくして はつえの実家から 連絡があった。 兄が事故にあい 至急帰れということだった。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

彼は 毒づいて、 俺と はつえは ほっておかれることに なった。 ............ ふたりの国には なにか目にはみえない、 不可思議な 積雪でもあって、 それが かなり 深いのだろう..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

ある昼下がり バスの中で 仲良く並んでいる姿を、 峯田がみつけた。 「ああいう女を 隠しておいて 楓なんぞを おまえに引き合わせた 僕はまぬけだ」

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

しかし彼女は、 異国に行くことは なかった。 すぐに、 俺の 恋人になったからだ。 ............. それは ふたりで決めた..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

「しばらくしてから、 台湾に 渡って、 二度とふたたび 日本には 戻らないわ」 と、 彼女は 繰り返して 言った。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

女子大を 途中でやめ、 実家にあった 明朝の壺を売って 金をつくったという。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

というと 聞こえが良いが、 実のところ 秘書、 あるいは 相談相手、 いや 御用聞き... 街へ 買い出しにも たのまれて行くので 仕方ない。 すべて、 はつえが決めた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

それから 一ヶ月。 その女 はつえは、 ホテルに滞在し、 俺は 彼女の、 保護者のような ものになった..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

沢にある 小さなホテルに 行きたいのだという。 脇には、 中ぶりの ボストンバッグを 置いていた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

そして その団子を一本 食い終わると、 こちらに 向き直った。 白目が澄みきった 可憐な瞳... このあたりでは すれ違うことすらない、 白いドレス姿.. 道を聞いてきた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

上品な 形の良い唇のはしに、 甘い醤油だれが したたる。 と、 女はそれを 器用に舌で すくいなめた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

華奢な 白い手脚... みたらし団子を 食いはじめた..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

冷たい緑茶で 余韻に ひたっていると、 縁台の 離れたところに 女がひとり、 腰をかけた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

すこし山道を 歩いて たいへん小さな 売店で、 甘い胡麻だんごを買った。 「きょうは 暑すぎてもう 店をしめようかと おもってました」 ......... 俺が最初の客なのだろう。 いつもの大男が 大汗をぬぐった。 地元の店から 毎日来ているのだ。 ほどよい甘さ…

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

用事があるから と言って 俺は そのまま、 家をでてしまった。 そのあと ふたりが どのような顔をしたかは わからない。 茶もださなかった。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

これが 俺には 読みとりにくい。 すべての男を 捕まえようとしている かのよう... 目の前の人物を みつめながらも 素通りして、 背後の男たちに 大網を 投げかけているのだ。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

そして こじんまりとした鼻と 弓形の眉のあいだの、 黒い ねっとりとした 艶のある 瞳。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

まず真っ赤な紅を ぬった唇が、 目に入る。 きっちりと 枠をきめて 綺麗に 塗りつぶしている。 まるで 『これが わたしの心意気です』 と 言わんばかりの 自己主張である。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

彼女が 俺の顔を じいぃっと見詰める。 ............ 申し訳ないが、 水商売の 女の顔が 俺には皆、 同じ顔立ちに みえる。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

しばらくして、 ご挨拶と称して 楓が 峯田とともに 現れた。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

峯田と 歩いていたときに、 楓が 見初めたという。 .......... そう言われても、 俺には まったく 覚えがない。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

神保町で 小料理屋を やっている。 かなりのやり手で、 その 楚々とした 顔立ちからは 想像もつかない、 辣腕の 経営者なのだという。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

そんな峯田から、 楓という 女を紹介された。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

なるほど 俺は 僧侶なのか..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

しかし 彼には、 職場で出逢った妻と 3人の子供との 家庭がある。 それを指摘すると 峯田は、 きっぱりと それは本質とは違う と切り返す。 俺が やりたかったのは 修行の僧の ような 生活なのだ、 と言う。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

おまえは、 俺にないものを すべて 持っている.. 友人の峯田は、 いつも そういう。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

ここでは、 神と自然と時間が 一体化している..

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

事情を 知らない訪問者は、 異様なことのように 驚き、 「さぞお暑いでしょう」 などと ねぎらいの言葉を かける。

紅香の愛・Benica・作蔵の恋..

この村にある 古い民家では、 八月でも 囲炉裏で 火をくべる。 そのすすが、 虫除けに なるのだ。