紅香の愛・Tokyo Benica・冬の、ペンギンたち

つぎに
ペンギンの
群れのまえにゆくと、
女性カメラマンが
一眼レフをかまえて、
彼らの決定的瞬間を
待っていた。
許婚も、
スマホをかかげたが
まったく
なにも起こらなかった。
彼らは
ただの
冬の、ペンギンたちだった。
................
写真家が去り
ひと気がなくなったので、
わたしひとりで
彼らのところへもどった。
無性に、
かわいいのだ。
すると
すこしして、
全体が動きはじめた。
強い勢いで
場がみなぎる
と、
沈黙の号令とともに
片端から
一頭ずつ
横長のプールに
飛び込みはじめた。
ガラス壁から
写真が間にあった。
目の前を
二頭がお腹をぴったりと
あわせて、
横切っていった...
一糸乱れぬ水中ショーを
わたしだけのために、
演じてくれたのだ。
彼らは、
調教を知らないペンギンたちだった。
それは、
まるで
祈りのよう...
わたしに、
祈願したのだろうか。
すべての生き物たちは
祈り、
それが形になって
現れているのだ。
そして
その水面からは、
とても
けなげな匂いがした..